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14.1 ハミルトニアンを生成する

 N粒子系のラグランジュ方程式は3N個存在しており、最終的にはそれぞれ2階の微分方程式に帰結した。ラグランジアンはqドットとqを変数に持っていたが、結局のところqドットはあくまでqの時間微分であり、独立変数という意味合いが弱かった。

 ハミルトニアン、ハミルトン方程式は、完全に独立な変数としてpとqを導入し、1階の微分方程式6N個と対応させることで運動を記述しようと試見ている。変数変換には数学的にルジャンドル変換と呼ばれる手法を用いているが、名称ほど困難さは生じない。

 ラグランジュ方程式は、その方程式が簡潔ではなかったが、ハミルトン方程式は非常に対称性の高い方程式群をなす。この意味合いで、正準方程式と呼ばれることもある。



ハミルトニアンの具体的な形を求めよう

 ラグランジアンはqとqドットの関数であり、ラグランジュ方程式を満たすものだった。これを新しい変数に焼き直すため、焼き直し後の関数ハミルトニアンはラグラジアンとは完全に異なっており、それが満たすべき方程式も異なるべきである。方程式の「意味合い」を変えないまま「独立変数」を新しいものに変換する必要がある。次のような作業を行う。





 ここまで計算して、次の手順でラグランジアンからハミルトニアンに変換する手順を得た。



 ハミルトニアンを計算すると、それが力学的エネルギーと一致することがわかる。簡易的にハミルトニアンを求めるときは、力学的エネルギーを求めてもよい。





球面極座標系





14.2 ハミルトニアンの性質(時間に陽、摂動)

 ハミルトニアンの定義より導かれるいくつかの性質や、ラグランジアンとの関連について議論する。

ハミルトニアンが時間に陽に依存する

 まずはハミルトニアンが時間に陽に依存する場合の性質について議論する。



 ハミルトニアンが時間に陽によるとは、すなわちラグランジアンが時間に陽によると同じ意味である。この時のラグランジアンとハミルトニアンの関係性を議論する。



ハミルトニアンが外力効果を特徴づけるパラメータを含む

 外力によって系に力が加えられているとする。電磁場や支点のひもを動かす力などが値する。外力の大きさを特徴づけるパラメータを一般化してλとする。複数あるかもしれないが、簡素化のため、一つのパラメータで記述には十分とする。この時、ラグランジアンやハミルトニアンにはλがパラメータとして存在する。この時のラグランジアンとハミルトニアンを結びつける式を導出する。



 系自身が持つエネルギーに比べ、外力が及ぼすエネルギーが非常に小さいとき、その効果を摂動と呼ぶ。摂動の効果を表すパラメータをλと呼んで次のように表す。



14.3 ポワソン括弧式の導入

 ここまでの内容では、ハミルトニアンとハミルトン方程式を導入したとしても、変数の独立性が高くなったことと、方程式が正準化した程度のメリットしかない、せいぜいラグランジアンとラグランジュ方程式の上位互換に過ぎない。ハミルトニアンを導入することの一つのメリットとして、任意の物理量の時間微分をポワソン括弧式を用いて、容易に導出できることにある。



 ポワソン括弧式を用いるとほとんどポワソン括弧式を計算するだけで、任意の物理量の時間微分を求めることができる。具体的にポワソン括弧式を導入しよう。

ポワソン括弧式



 ポワソン括弧は、量子力学での交換子と類似の性質を持っている。量子力学でも任意の物理量に対応した演算子の時間変化を同型の式を用いて表すことができる。もう少し、ポワソン括弧とポワソン括弧式を掘り下げる。

ポワソン括弧の基本性質



 まずは最も基本的なpやqをポワソン括弧に導入した場合を計算した。非常におもしろい結果がわかった。q同士やp同士ではポワソン括弧の値はゼロになるのに対し、qとpでは同じ添え字の、対をなす組み合わせの場合のみ値を持ち、それ以外ではゼロとなった。

 その他、いくつかの定理も紹介しておこう。



 定理の証明は基本的に定義式を用いれば証明可能である。

14.4 ポワソン括弧式と保存量

 ポワソン括弧式より、任意の物理量の時間微分が求められることがわかった。物理量が時間に陽によらないことを前提にすると、ポワソン括弧がゼロになれば、それは系の保存量だと考えることができる。



 これはかなり特殊な事実を表している。ハミルトニアンを求め、それと物理量の括弧式を計算するだけで、その物理量が保存量であるかを検証することができるのである。





新しい保存量を生成する

 今まで保存量は、ある種天下り的に、エネルギー、運動量、角運動量などと与えられてきたのみだが、実際には保存量とは2階微分の運動方程式の積分定数のことなので、n個の運動を特徴づけるパラメータに対して2n-1個存在する。エネルギーや運動量、角運動量のみでは不十分である。(※2n個でないのは、定数の一つを初期時刻t0とすることが多いからである)

 万能ではないが、既知の2つの保存量が見つかった時、3つ目の保存量をポワソン括弧を用いて生成できる可能性がある。



 もちろん、場合によってはfとgのポワソン括弧を計算すると、ただの定数になってしまったり、fとgのただの関数になったりと無意味な結果が導かれる可能性もある。このような物理的に無意味な可能性もあるため、絶対に新しい保存量を導くことができるということは保証しないことは注意が必要である。




14.5 終点の関数としての作用とハミルトン-ヤコビの方程式

 ラグランジュ方程式、ハミルトン方程式は、ともに運動を記述するニュートン方程式の別の形であった。加えて、ハミルトン-ヤコビの方程式も紹介しよう。ラグランジアンの積分としての作用を用いた方程式である。

 ハミルトン-ヤコビの方程式を解くと、ニュートン方程式のような運動に伴う座標の時間変化が求まるというよりはむしろ、いろいろなポテンシャル下における直感的には把握しづらい運動方程式の積分が求まると考えるほうが良い。

 ハミルトン-ヤコビの方程式は偏微分方程式であり、変数分離で完全解を求めることで解くことができる。とはいえ、この章ではそこまで踏み込むことはせず、ハミルトン-ヤコビの方程式の求め方と、どのような方程式かの解説でとどめる。方程式の形だけでも把握しておけば、アインシュタインの特殊相対性理論の方程式として出てくる、ローレンツ変換に対して共変なハミルトン-ヤコビの方程式との類似性が理解できると面白いからである。

 作用の値は、始点と終点の位置が定まって、初めて決定されるものである。作用を、始点は固定して終点を動かしたときの関数として設定し、それがどのような方程式に従うかを検証するところから始める。





 相対論的なハミルトン-ヤコビの方程式の導出は特殊相対性理論の章を見てほしい。光速cの大きさに依存することがわかる。古典力学は、光速を無限に大きいと考えた場合の近似である。(情報伝達は無限に速く伝えることができる)実際にc→∞の極限で、古典力学のハミルトン-ヤコビ方程式と一致する。




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