5.1 運動方程式を積分しよう(運動量保存則)
運動の3つの法則のうち運動の法則によって、物体の位置や速度の時間変化を求めることができるよ。位置や速度の変化の仕方は、力の種類(どのように力が働くか)によって決定されるよ。
実はこの運動方程式に対して、所定の方法で積分をすることによって、運動方程式の陰に隠れている、3つの法則をあぶりだすことができるんだ。

注意書きで、それぞれの保存則が実は空間や時間の一様等方性に関連していることを示しているよ。この議論を行うには、ラグランジュ方程式という新しい概念の導入が必要だから、時期が来たら詳細を話すよ。さて、3つの保存の法則のうち、今回議論するのは運動量保存の法則だ。
5.2 運動量と力積について
いきなり積分して運動量保存の法則を導く前に、運動量とは何か、それに付随して力積とは何かを言及しておこう。
ボーリングの玉が与えることができる『衝撃力』の強さを議論しよう。今質量mの玉が速度vでピンにぶつかるとき、mが大きいほど、またvが大きいほど、ピンに与える衝撃力は大きくなるよね。ボーリングの玉に、質量と速度に比例した、衝撃力を与える物理的な量が内在していると考えてみよう。この内在的な量を運動量と呼ぶわけだ。

ボーリングの玉が与えることができる『衝撃力』の強さを議論しよう。今質量mの玉が速度vでピンにぶつかるとき、mが大きいほど、またvが大きいほど、ピンに与える衝撃力は大きくなるよね。ボーリングの玉に、質量と速度に比例した、衝撃力を与える物理的な量が内在していると考えてみよう。この内在的な量を運動量と呼ぶわけだ。

衝突の瞬間を考えよう。玉はぶつかった瞬間、ピンからマイナス方向に力を受けるよ。それと同時に、反作用でピンはプラス方向に力を受けるよ。結果、玉はぶつかった瞬間減速させられ、ピンは前方に加速(ふきとば)されるわけだ。現実的にはボーリングとピンは無限に硬いわけではないため、ぶつかった瞬間にわずかにへこむよ。それに伴い、力fがかかるのは無限に短い時間ではなく、ある有限な時間になるわけだ。

今、t1からt2の間でボーリングの玉の運動方程式を積分しよう。
玉の運動方程式

ここで非常に重要な知見が得られたよ。衝撃力を表現する玉に内在する物理量である運動量が、衝突の前後でどのように変化をするかは、力積の大きさに依存するといえるよ。力積とは、力を時間で積分した量Sだよ。
ピンの運動方程式

今、t1からt2の間でピンの運動方程式も積分しよう。ピンにかかる力が玉にかかる力の反作用であることに要注意だね。

5.3 運動量保存則を導こう
さて、玉とピンのそれぞれの運動量と力積の式が出てきたよ。この2つの式を連立させることで、運動量保存の法則を導くことができるよ。
この問題の場合は、衝突時以外で力は働かないので、慣性の法則より衝突直前の速度は変わらず、衝突終了後から先も衝突終了時の速度を保持するよ。運動量保存の法則とは、衝突前の運動量の総量と、衝突後の運動量の総量が一致するという保存法則だよ。


5.4 運動量保存の法則をさらに一般化する
運動方程式の加速度や力は、本来3次元のベクトルで表される。今、2物体が衝突した結果、3次元的に跳ね返される場合を考えよう。
しかし、3次元的な衝突であったとしても、2つの玉の間に働く力は作用・反作用の関係であるわけだから、力は一直線上の真逆の向きであり、大きさは等しく働くね。

3次元的に玉1と玉2の運動方程式をたてよう。

少しわかりにくいかな?例題でさらに概要をつかもう。

運動量保存の法則の一般式を用いて整理しよう。

3つのベクトルの始点を合わせて書いてみよう。少し工夫すると、直角三角形が見えてくるよ。

さらに、今度は3つの玉が同時に衝突するような場合を考えよう。図のように3つが一か所で衝突したとしよう。ただしこのような場合でも、玉1と玉2の間、玉2と玉3の間、玉3と玉1の間に働く力は作用・反作用の法則にしたがうよ。

さらに一般化して、N個の玉があるとして、N個の玉に働くのは、玉同士の衝突のみだと仮定すると、あるタイミングtと少し経過した後のt'で次のような法則が成立するよ。運動量保存の法則との最も一般化された姿だよ。




5.5 跳ね返り係数とは
質量がm1とm2の2体の衝突を考えよう。運動量保存の法則が成り立つね。衝突前の速度が既知としよう。衝突後の2体の速度をそれぞれ求めることができるか。
衝突後の速度を求めるためには、もう一つ、式が必要だよ。2体がともにゴムボールだったとすると、非常に跳ね返りやすいよね。この時、跳ね返り係数が1であると呼ぶよ。一方、2体がともにスポンジのボールだったとすると、互いに跳ね返りが弱いよね。この時、跳ね返り係数がゼロになるよ。跳ね返り係数は次のように定義できるよ。

跳ね返り係数の性質を把握するために、次の2つの場合の跳ね返り係数を計算しよう。

跳ね返り係数と、運動量保存の法則の2式から、衝突後の各々の速度を求めよう。

5.6 運動量保存の法則を適用できる例題をいくつか

運動量保存の法則が適用できる範囲
2体の間に運動量保存の法則が働くか否かは、働く力が内力のみか否かで決定されるよ。なぜならば、運動量保存の法則の成立には作用・反作用の法則で2体の間に働く力の大きさは等しく向きが逆という条件が必須だからだよ。
軸を決める

式をたてる
分離直前をt、分離直後をt'とおいて、運動量保存の法則を導こう。t~t'の間の本体の速度をv1、ブースタの速度をv2とおくよ。分離直前はブースタと本体は同じ速度で飛んではいるが、相互に力を及ぼしあっていないと考えればよいよ。

式変形して答えを求め、解釈する。


運動量保存の法則が適用できる範囲
2体の間に運動量保存の法則が成立するかは、ある時間t~t'の間で力が内力しか働いていないとき、運動量は保存するよ。今回の場合、働く力は内力だけだろうか?

さて、働く力は大別して4つあるね。この時、重力は地球と小箱、中箱それぞれの間に働く力だよ。今注目しているのは小箱と中箱のみであるわけだから、この重力は内力ではなく、外力に相当するよ。さらに垂直抗力の中でも、中箱に働くものは、中箱が地面すなわち地球を押す反作用に相当するわけだ。これも内力ではないね。
この場合、運動量保存の法則を使うことはできるのだろうか?実は横方向の運動量は保存しており、縦方向の運動量は保存しないんだよ。


横方向の運動量保存の法則から運動を求める


運動量保存の法則が適用できる範囲
内力のみが働く場合、運動量保存則が適用できるよ。また、外力が働く場合でも、その外力に垂直な方向には、運動量保存の法則が適用できるよ。

式をたてる、運動を考察する
今回の運動中には、必ず外力が働くわけだけど、外力は上下方向になるね。つまり、横方向のには運動量保存の法則が成立するわけだ。

重力によって、小箱は滑り台を滑り始めるわけだけど、あくまで重力が働くのは上下方向だね。つまり、横方向の運動量が保存されて、最終的にも横方向に静止するわけだ。


